Tom à la ferme / 2013 / カナダ・フランス
トムは、事故で亡くなった恋人のギョームの葬儀に参列するため、ギョームの母アガットと兄のフランシスが2人で農場を営んでいるケベックの田舎を訪れる。アガットはギョームがゲイであることを知らず、サラという恋人がいるという嘘を信じていた。一方事情を知っているらしい兄のフランシスは、母を傷つけたくないという理由から、トムにも恋人ではなく単なる友人として振る舞うよう嘘を強要する。その後も、粗暴なフランシスの、激しい暴力を伴う理不尽な要求に苦しめられていくトムだったが…。
[↓以下ネタバレしているかもしれません。未見の方はご注意を!↓]
さまざまなシーンや台詞などから、実際に関係があったのかどうかはわからないけれど、フランシスにとっても弟ギョームは恋愛の対象であったように思う。そして、おそらくトムに対するように弟にも接していたのだろう。だからこそ弟は家を出、連絡さえしないようになる... もうひとつ、母と息子の関係をみると母親のアガットもなかなか強圧的というか頑迷な人のようで、フランシスじたいその支配下にあるかのように見える。そこへ弟の身代わりとしてのトムが現れる。一方、トムもまたフランシスにギョームを見る。つまり二人とももういないギョームを相手の中に見てすがりついているように思った。しかし、おそらく関係をもった朝(ベッドの配置が変わっている)、トムはふとフランシスはギョームじゃないと我にかえったんじゃないだろうか。というわけで、ストックホルム症候群とはちょっと違うんじゃないかな。
もう1点、トムが脱出した折りに、それまでのストーリーがメタファーであったことが明らかにされる。個人的にはカルロス・フエンテスの『ガラスの国境』を読んだばかりだったので、反対側でアメリカと国境を接しているカナダの人もまたこういう感情を抱いているということにふいを打たれた。
↑ここまで↑
いろいろな見方ができる映画だ。にしても、すべてのシーンをエロティックかつ痛々しく撮ってしまうグザヴィエ・ドランはすごい。冒頭のKathleen Fortin'Les Moulins de Mon Cœur'、エンディングのRufus Wainwrightの'Going To A Town'を始め、音楽もとても効いている。
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白日焔火 / 2014 / 中国・香港
1999年、中国の華北地方で複数の石炭工場からバラバラにされた遺体の部分が次々と発見され、妻との離婚問題を抱えるジャン刑事が事件を担当する。遺体が各地にちらばっていたことからトラック運転手の兄弟が容疑者として浮上するが、逮捕時の銃撃で死亡してしまう。真相を解明できぬままジャンはやがて警察を辞め警備員になる。そして、2004年、かつての同僚から5年前と同様のバラバラ殺人が2件発生していることを聞きつける。どちらの被害者も、5年前の被害者の未亡人ウー・ジージェンと関わりがあったという。そこで、ジャンはウー・ジージェンに近づき独自に調査を開始する…
ストーリー展開としては監督がインタビューで語っていたような中国社会の不条理を描いたものとしても、ミステリーとしても弱いような気がするが、おそらくこの映画の主眼はそこにはないのだろう。グレーが基調のある意味荒涼とした街並や風景にやわらかく投げかけられるネオンの色、転がるビンの音、雪を踏みしめる足音、スケートが氷をかく音、ある意味唐突に導入されるダンスシーンなどの細部が妙に心にひっかかる映画だ。全編無表情だったウー・ジージェンがエンディングの花火のシーンでふと表情をゆるめるのが印象的。
ウー・ジージェンを演じたグイ・ルンメイはたぶん「藍色夏恋」がデビュー作で、瑞々しさが印象的だったけれど、ずいぶん大人になって、いい味の女優さんになってきたなー。
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早稲田松竹で2本立てて見てきた。
病気をして以来映画館に行くのも体調と相談なので、なかなか映画館で観られないのがつらいんだけど、久々に映画館に行ったら行ったで、ふだんDVDやTVで映画を見慣れてしまっているせいか、妙に画面が暗いような気がして、視力が落ちたのかと思った。次からはもっと前に座ろうっと。
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